2014年3月7日金曜日

クリスティ文庫(29)

 『春にして君を離れ』、非常におもしろかった。主人公と同じタイプの孤独な人間でないとおもしろくないのではないかと思ったが、そうでもないらしい。
 主人公は他人に好かれない理由や他人にどう思われているかについて自覚がなかったようだが、自覚があってもなかなか自分を変えられるものではない。自覚のない人間に対しては「可哀そうに」というよりは「幸せな人だなぁ」という人のほうが多いと思う。もちろん、かなりの皮肉まじりだが。
 人が殺されたり、盗難事件がおきなくても、「あれはどういうことだったのだろう」とか、「あの人はあの時どう思っていたのだろう」と疑問に思い、真相が知りたいことはたくさんある。
 主人公が真相を導き出すやり方が推理小説の場合と同じなのは、さすがクリスティだ。ただ、人の会話や行動から推理しても、その結論が自分の思いすごしかどうか確認するには証拠が必要だ。真実と証明するためには証拠が必要なのは殺人事件と変わりがない。
 推理小説で証拠が貧弱だと、犯人と対決して犯人の自白を引きだしたりするが、この小説の結末は推理小説とは違う。
 結末を明かさないのが、推理小説の感想を書くときのマナーだとすると、この小説も結末を書くのはマナー違反になるようだ。

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