2014年2月21日金曜日

クリスティ文庫(21)

 『茶色の服の男』を最後まで読み、手記を利用したトリックが仕掛けられていることがわかった。
 手記を利用したトリックで超有名なのは『アクロイド殺し』(1926)だ。今まで、このトリックを最初に使ったのは『アクロイド殺し』だと思っていた。どうしてそう思っていたかと言えば、別の作品の後書きを読んだためだ。
 後書きでトリックがばれてしまうのは仕方がないとしても、不正確な記述は許せないと思い、そう誤解させた記述を探してみた。
 創元推理文庫の『ゴルフ場の殺人』に「クリスティ訪問記」が載っており、その中にクリスティ自身のコメントとして、『アクロイド殺害事件』(創元推理文庫ではこの題名)について「大多数の人に好まれており、あのトリックを上手にいかした最初の作品」とある。
 単に最初に使ったとは書いていない、「上手にいかした」という修飾語がついている。ただ、自分としては、『茶色の服の男』も充分によく生かされていると思う。少なくとも、それでだまされた読者で、怒った人はいなかったのだろうと思う。
 『アクロイド殺し』を読んでアンフェアと怒った人は、それほどのクリスティファンでは、なかったのだろう。クリスティのそれまでの作品をすべて読んでいたら、不意打ちでもなんでもなかったはずだからだ。これもまたアリということは織り込み済みだったろうと思う。

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