スピルバーグ監督映画の割には知名度が低いように思う。主演の少年が大人になって俳優として成功したか気になってネットでみたら、有名な俳優のようだ。役作りのために肉体を変化させることが話題になっているようだが、この作品でも食料事情のせいで最後はかなりやつれ、最初と最後とで演じている少年が交代したのかと思ったくらいの変わりようだ。
あまり有名な作品にならなかったのは、原作者のバラードに原因があるように思う。バラードがつくりだす世界と映画を見る人間の期待との間にずれがあるのだろう。
映画を見る人は、日本人もイギリス人も同じ人間だから敵味方を超えたなんらかの温かい心の交流というヒューマニズムを期待したり、あるいは、日本軍に対抗して捕虜同志助け合うとか知恵と勇気を発揮して苦難を乗り越えるなどの冒険やスリルやヒーローの活躍などを期待するだろう。または、戦争の悲惨さや残酷さで心を痛めたいのかもしれない。
しかし、バロウズの小説には特別な悪人も善人も出てこないし、特別な悪行も善行もなされない。現実の世界に生きている普通の人の普通の行為しかない。「太平洋戦争時の上海と上海近郊の日本軍の捕虜収容所」という特異な設定から生じる特別なこと以外に特別なことは起こらない。
作られたストーリーの面白さや退屈な現実生活で味わえないような感情を期待するとがっかりするだろう。
そういう意味では通俗的なものやセンチメンタルなものが嫌いな人向けだ。
映画の中の日本人の少年(後に少年兵)との心の交流や劇的で皮肉な少年兵の死は原作にはない(マンゴーをもらうところや少年兵の死はある)。空腹のときにへたに少し食べると余計にお腹が減るが、こういう映画にありがちなエピソードのおかげで、この路線でもっと感動的なものが見られるのではと期待させて肩すかしに終わっている。何を描きたい映画か見る者を惑わせるだけのように思う。原作の雰囲気が好きな人には、余計な脚色だろう。
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