平成26年2月発行の「論究ジュリスト」を読んで、刑の一部執行猶予制度についての法律が去年の6月に成立していたことを知った。
今までの執行猶予は、刑務所にいかずに済むが、一部執行猶予はまず刑務所に入り、残りの部分が猶予される。三年以下の懲役若しくは禁錮、猶予期間が一年以上五年以下、保護観察を付す場合と付さない場合があるのは一回目の全部執行猶予の場合と同じだ。
刑期が三年以下の場合に限られるが、全部執行猶予、一部執行猶予、実刑のどれにするか選択肢が増え、判断が難しくなった。
全部執行猶予の場合は「情状により~その執行を猶予することができる」となっているが、一部執行猶予の場合は「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、~その刑の一部の執行を猶予することができる」となっている。
刑期の長さの決定と、全部執行猶予あるいは一部執行猶予の決定を相互に考慮して決めるのか?今までなら執行猶予にする判断と刑期の長さの判断は関連して決めていたと思う。
刑の一部執行猶予の場合は、全体の刑期と猶予しない期間とはどう分けるのか。改めてそもそも刑期の長さは何を考えて決めるのだろうと思ってしまう。
もともと、単純にやってしまった行為と結果に応じて刑期を決めていたわけではなく、更生に必要な期間も考慮していたと思う。更生に必要な期間は刑務所にこれだけ入っていたら更生するだろうという期間と考えていた。更生するのに一年で充分な場合でも犯罪の内容からして三年の刑期にしなければならないという場合に、三年の刑期で二年間の刑期を保護観察に付さずに猶予するというのは、わかる。もっとも、そういう場合は、弁護人は全部執行猶予を主張するように思う。その場合に検察官が一部執行猶予を主張するかどうかはわからない。
逆に更生するのに五年必要だが、軽い犯罪で二年の刑期の言い渡しがせいぜいと言う場合もある。
この場合、一部執行猶予にし、執行猶予を取り消されたら刑務所行きという恐れによって、再び犯罪をすることを防ぐことを狙っているとも考えられる。この場合は、受刑によって更生させられることは最初からあきらめているともいえる。
もちろん、執行猶予中でなくても犯罪を犯せば刑務所に行くことになるから、刑務所行きを恐れて犯罪を起こさないことを期待するのが、一番のねらいではないのかもしれない。
執行猶予の取り消しは、「保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき」にも取り消すことができる。再犯の恐れがある場合に実際に罪を犯す前に刑務所に戻すことができるのが一番のねらいかもしれない。
それから、どういう犯罪で何年の刑期にするかはおのずと幅がある。一部執行猶予制度がない場合は二年の実刑にしていた場合に、一部執行猶予制度ができたために、三年の刑期にして一年猶予して実質二年という判断になるのでは?とも思う。
もちろん刑務所を出てからちゃんとした生活を送っていたら、実際に刑務所に入っている期間に変わりがないか短くなる人もいるのだろうが、刑の一部執行猶予は、再犯の可能性が高そうな人が多くの場合対象になるようなので、結果的に刑務所に入っている期間が長くなる人も多いだろう。
弁護人としては、刑務所に実際に入っても更生できず再犯のおそれがありそうな被告人の場合に、結果的に刑務所に入る期間が多くなりそうな一部執行猶予の主張をするのは、ためらうように思う。それに、法律上刑の全部執行猶予の要件を満たす被告人について一部刑の執行猶予の主張をする場合とは、どんな場合か容易に想像がつかない。それとも検察官が主張するのだろうか。
裁判員裁判では検察官の求刑を超える判決がだされることもあるようだ。裁判員裁判が始まった当初は、裁判員は検察官と弁護人の主張を聞いて、なるほどと説得されたことをもとに結論を出すだけだと思っていた。ところが、実際は、双方の主張を参考にして、「自分で」判断するようだ。私自身は、一部執行猶予については、どういう事情をもとにどういう判断が求められているのか容易に理解できない。いろいろなケースを含んでいそうなのも理解を難しくしていると思う。これに仮釈放を絡めればもっと複雑になる。
仮釈放については、理屈の上では、受刑後の話とわりきるしかないが、現実にどういう結果になるかを考える場合は考えないわけにはいかない。
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