ジュリスト6月号の租税判例速報が、またまたおもしろい。
相続税の申告納付をした人が、減額更正請求したことに対して、税務署長が相続財産の評価の誤りを理由に減額更正して還付加算金を加算して過納金を還付した。その後、税務署長は相続財産の評価の誤りを理由に増額更正し、この増えた分の税額に応じた延滞税が発生するとした。
増額更正後の税額は当初の申告納税額より低かったため、納税者は延滞税の納付義務を争い最高裁は納税義務がないと判断した。
ちなみに還付加算金は減額請求してから三ヶ月以内は発生せず、延滞税については、増額決定までの期間は、法定納期限(本来の申告納税期限)から一年分だけ発生する。そのため、納税者が還付加算金狙いで故意に過大に申告しても課税庁が迅速に処理すると還付加算金は発生せず、課税庁の増額更正処理の遅れによって一年分以上延滞税が増えることはない。
下級審が延滞税の発生を認めたのは延滞税は本税に付随して発生することを重視したためで、条文どおり機械的に延滞税を計算するなら、延滞税が発生すると考える方が話が簡単になる。
最高裁は「そして,延滞税は,納付の遅延に対する民事罰の性質を有し,期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものであるところ,上記の諸点に鑑みると,このような延滞税の趣旨及び目的に照らし,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件各増額更正によって改めて納付すべきものとされた本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法において想定されていないものとみるのが相当である。」と判断した。
解説者は「本判決においては、立法者意思等が十分に吟味されたとはいえず、問題が残るといえよう。また、こうした解釈により、延滞税を回避するために意図的に過大に申告・納付をし、更正の請求を行う可能性もあり得るため、慎重であるべきであろう。」と書いている。
自分も最高裁が「民事罰の性質を有し」と決めつけたのは、言い過ぎではないかと思うが、延滞税を回避するため以下の記述については、全く理解できない。
以下の筆者の記述にあるように、本件の射程は「課税庁の行為によって未納付状態が作出された」場合に限られるので、どうやったら課税庁が減額しすぎてから増額する行為を期待して、延滞税を回避するために意図的に過大に申告・納付する人がいるかもしれないと考えることができるのか不思議でしょうがない。
事案の内容がよくわからないせいかと思い最高裁のHPの判決文を読んで驚いた。まず延滞税の金額が一人あたり一万円台だ。
そして、事案の内容だが、納税者が減額更正請求した一部が認められて減額更正されたが、それに対して異議申し立てをしたところ、減額しすぎとの判断がされ、その判断を受けて課税庁が増額更正したというものだ。最初の減額更正も異議申し立ての判断も同じ税務署だ。これでは、「せっかく減額してあげたのに、それに納得せず更に争うから、かえって損したでしょ」といっているようなものだ。しかも最初の減額更正の判断については還付加算金が発生するくらい時間をかけているのだから、一回でちゃんと判断できなかった言いわけができないように思う。
今度もまた、結論としてはこれしかないと思うが、理論面の説明は苦しい。法律は課税庁がこんなまねをすることまでは、想定していなかったとしか言いようがない。
念のため関係する判決文の一部を示すと以下のとおり(平成25年(行ヒ)第449号)
他方,所轄税務署長は,本件各更正請求に係る税務調査に基づき,本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,上告人らの主張の一部を認めて本件各減額更
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正をしたにもかかわらず,本件各増額更正に当たっては,自らその処分の内容を覆し,再び本件各減額更正における本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,税額を増加させる判断の変更をしたものである。
以上によれば,本件の場合において,仮に本件各相続税について法定納期限の翌日から延滞税が発生することになるとすれば,法定の期限内に本件各増差本税額に相当する部分を含めて申告及び納付をした上告人らは,当初の減額更正における土地の評価の誤りを理由として税額を増額させる判断の変更をした課税庁の行為によって,当初から正しい土地の評価に基づく減額更正がされた場合と比べて税負担が増加するという回避し得ない不利益を被ることになるが,このような帰結は,法60条1項等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由が必要とされていないことや,課税庁は更正を繰り返し行うことができることを勘案しても,明らかに課税上の衡平に反するものといわざるを得ない。そして,延滞税は,納付の遅延に対する民事罰の性質を有し,期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものであるところ,上記の諸点に鑑みると,このような延滞税の趣旨及び目的に照らし,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件各増額更正によって改めて納付すべきものとされた本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法において想定されていないものとみるのが相当である。
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