2015年5月5日火曜日

抽象的納税義務

 平成26年度の「重要判例解説」の租税法5の結末の「本件判決の上記判示は、抽象的納税義務が成立していない納税義務者に対して遡及的に具体的納税義務を確定させる結果を導くものであり、現行実定租税法規の解釈として、上記租税法学の通説的理解と相容れるものではないことから、首肯することができない。」という解説を読んで、頭を傾げてしまった。
 確かにカッコ書きの理屈はその通りだと思うが、このケースは、賦課期日の時点において抽象的納税義務があるように思えたので、こういう判決の理解でよいのかと思った。
 解説を読むと最高裁の理屈に反対しているだけか、結論にも反対しているのかよくわからない。
 このケースは、平成21年12月7日に新築し、所有権を取得した家屋に対して、平成22年12月1日付で固定資産税が課税されたというものだ。固定資産税の賦課期日(1月1日)の時点で、新築家屋の所有者が登記されておらず、家屋補充課税台帳にも登録されていなかったことが問題となった。
 解説者は、最高裁が、賦課期日に登記登録されていなければ、抽象的納税義務が生じないと判示したと解釈したようだ。そう思って読むと確かにそう書いているようにみえる。
 でも、普通の人なら、賦課期日に家屋を所有していたら抽象的納税義務はあると考えるのではないだろうか。
 たまたま、市の把握が遅れ、もう今年は課税されないだろうと思うころに納税通知書がきたので「なんだ?!」となっただけで、通常の課税時期に納税通知書が出された分で、1月1日の時点で登記登録されていなかった家屋はたくさんあり、それが問題にもされていなかったと思う。
 年末ぎりぎりに完成したら、登記がその年中にできないのは普通だし、役所が年末の休みに入って完成したら1月1日に役所に登庁して台帳に登録することなど考えられない。
 理屈の上では、定期課税の時期に課税しようが、それに遅れて課税しようが同じ話のはずだ。
 このケースは結論は明らかで、どう理屈づけるかの問題だと思うが、その点で、高裁の裁判官が課税を取り消したのは、何を考えていたのか理解できない。
 おかしな高裁判決が先にあったので、最高裁の理屈も変な方に向いたのではないかと思う。最高裁の結論部分だけを読むと当然のことが明瞭に書かれている。
 

 後でジュリスト5月号を読み、同じ判決について書かれていることに気づいた。
 そこでは、課税できない場合の実務上の問題点と結論の弊害が書かれ、最高裁が従来からの課税実務を支持していると締めくくっている。
 結局、法律の作り方がまずいので、理屈で考えるとおかしな結論になるということだろう。
 破産宣告を受けて破産手続き中に発生する法人道民税の均等割についてもすっきりしない問題があった(会社法の制定で事情がかわったようだ)。これは、法律が破産手続き中の会社について何も手当していないせいだと思っていた。
 法人税や所得税の国税の方は、詳しく定めすぎて法律を読んだだけでは内容がよくわからず、地方税の方は定めが簡単でわかりやすいが、法律で対応できない場合が多々発生するという印象だ。
 このように国税の法律は玄人がつくり地方税は素人がつくっているような印象になるのは、国税の方は扱っている行政庁の担当者が税のプロなのに、地方税の方は、地方はともかく国の方の担当は税の担当者ではなく地方行政の担当者だからではないかと、勝手に考えている。これこそ素人の勘違いかもしれないが。
 縦割りの弊害というが、地方税については、この縦の線がすっきり一本になっていない方が問題だ。
 市町村が国法の内容について疑問がある場合は、都道府県の担当者を介して国の担当者に質問することになるが、その時の都道府県の担当者は都道府県の税を担当している人ではなく市町村行政を担当している人になる。仮に都道府県の税の担当者に話をするとしても市町村と都道府県で課税する税目は一致しないので、話を聞ける人がいないことになる。
 市町村と都道府県の税の関係者で同じことを自分の担当として実務をしているのは、国税徴収法に関係することや、課税関係では固定資産税及び不動産取得税の新築家屋の評価や法人の均等割についてなど一部の点だけになる。
 法律を実際に適用しておこる問題を解決するのに役立つように作っていくには、法律を作る人が実務を知っていなければならないが、自ら実務を経験せず、実務を担当している人の声が充分に届かない仕組みのもとで作っているのなら、充分な法律をつくるのは難しいと思う。

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